「八月の巣のなかへゆく貨物船」という句がある。この貨物船は、貨物船ではあっても普通の貨物船ではなさそうだ。巣へ行くのだから、なんだか動物のようである。「早春の空より青き貨物船」という句もある。空から来るこの貨物船も不思議だ。ともあれ、岡本亜蘇の俳句では、言葉が普通の意味から抜け出し、別の意味やイメージを示す。その変化する言葉の不思議さや妖しさが彼の俳句の魅力である。 (坪内稔典)